東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)72号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告ら主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 原告らは、引用例記載のものにおける清浄化処理工程と本願発明における(b)工程とは、その技術内容を全く異にするものであつて、審決が、引用例には化学的エツチング量につき数値的記載がない点を除けば、本願発明と引用例記載のものとの間に全く相違がないと認定したことは誤りである旨主張するので、この点について検討する。
(一) まず、本願発明の内容について概観すると、次のとおりである。
当事者間に争いのない前示本願発明の要旨及び成立に争いのない甲第二号証(本願公告公報)によれば、本願発明は、「平版印刷版用支持体の製造方法、更に詳しくはアルミニウム板(本発明においては、アルミニウム合金板も含まれるものとする。)を、順に、機械的に粗面化し、化学的にエツチング処理し、電気化学的に粗面化することからなる平版印刷版用支持体の製造方法に関するもの」(同公報第二欄第一一ないし第一六行)であつて、「従来より、平版印刷版用支持体としてアルミニウム板が広く使用されているが、その上に設けられる感光層との密着性を良好にし、且つそれを用いて作成される平版印刷版の非画像部(印刷時に使用される湿し水を受容し、油性インクを反撥する領域で、支持体の表面が露出している領域がこれを担う。)の保水性を改善することを目的として、アルミニウム板の表面は粗面化されるのが通例である。この粗面化の処理は、いわゆる砂目立てと称され、平版印刷版用支持体の調整においては不可欠の工程で、しかも相当の熟練度を必要とする作業である。この砂目立てはボールグレイン、ワイヤーグレイン、ブラシグレイン等の機械的な粗面化方法と電気化学的な粗面化方法に大別される。ボールグレインの場合にはボールの材質、研磨材の種類、研磨の際の水分の調整等、熟練を要する因子が多く、また作業を連続的に行うことは不可能で一枚一枚仕上げる必要がある。又ワイヤーグレインは、得られる砂目が不均一である。これに対してブラシグレインは、これ等の方法を改良したものであつて、均一な砂目のものが得られ、連続的処理が可能であるので、大量生産に向いている。しかし原理的には機械的な研磨方法に変わりはなく、機械の調整には熟練を要し、しかも砂目の表面粗さが大きくできないという欠点がある。一般に表面粗さが大きいと水持ち(即ち、保水性)が良くなるといわれており、水持ちをよくするためや印刷し易くする目的の平版印刷版を作成する場合には、その支持体の平均表面粗さ(Ra)が〇・六μ~一・五μ程度のものが好ましいとされている。このような好ましい範囲のRaが得られる方法として、電気化学的な粗面化方法が着目されている。この方法による場合には、電解液の組成、温度、電解条件などの諸条件を一定に維持しておけば、一定の粗面化表面を有するアルミニウム板が得られるが、それ等の電解条件の巾が非常に狭く、従つて、そのような範囲内に常に保つように調整して連続して電解することは、極めて困難である。又電気化学的な粗面化は、その電力消費が大であるので経済的な見地からも問題がある。しかも、電解によつて、電解液中にアルミニウム・イオンが相等量蓄積されていき、この廃液の処理に対する人件費及び薬品代が、かなりの金額に達する欠点があつた。」(同第二欄第一七行ないし第三欄第二三行)との知見に基づき、本願発明は、「Raが大きくて均一な砂目を有し、しかも大量生産に向いた、平版印刷版用支持体の製造方法を提供すること」(同第三欄第二四ないし第二六行)、「平均粗さが大きくて、均一な砂目を有する平版印刷版用支持体を、電気化学的な粗面化を使つて、しかも使用する電力が少なくてすむ経済的な製造方法を提供すること」(同欄第二七ないし第三〇行)、さらに、「平均粗さが大きくて均一な砂目を有し、しかも電気化学的な粗面化の際に生ずる電解液中のアルミニウム・イオンの蓄積量を減少させうる平版印刷版用支持体の製造方法を提供すること」(同欄第三一ないし第三五行)を技術的課題とし、右技術的課題を達成するため、本願発明の要旨記載のとおりの構成を採用したものであり、右構成により、「その表面はRaが大きくて均一な砂目を有し、しかも電気化学的な粗面化の際に、消費される電力が少なくなり、しかも電解液中へのアルミニウム・イオンの蓄積量を減少させうる」(同第三欄第四一行ないし第四欄第一行)という作用効果を奏するものであることが認められる。
(二) 次に、成立に争いのない甲第四号証(米国特許第二、三四四、五一〇号明細書)によれば、引用例記載の発明は、本願発明と同じく、アルミニウム板より成る平版印刷版用支持体の製造方法に関するものであり、引用例には、その技術的課題に関し、「本発明は過去における上記のような高価な研磨法よりも一層良い砂目立て方法を提供するのみならず、フレキシブルな板をも提供し、これらはアルミニウムの厚さと、砂目立て方法が非常に安価であるということの両者に基づくものである。」(第一頁左欄第三四ないし第四〇行)と記載されていること、引用例記載のものの実施例として、「既にワイヤーブラツシングしたか、又は研磨砂目立てし、かつ、その裏打ち紙(もしあれば)を耐水化したプレートの好ましい処理の実施例は次のとおりである。まず、プレートを九五度Cの五%苛性ソーダ溶液に浸漬し、十分に清浄化する(thoroughly cleaned)。これにより表面上のあらゆる異物ばかりでなく、すべての油脂と酸化物皮膜が取り除かれる。次いで、このプレートは冷たい水道水で洗つて清浄化液を除く。第三の最も重要な工程は電気化学的工程である。プレートはいくらかの塩酸を添加した4/10規定塩化ナトリウムに浸漬する。プレートを陽極とし、適当な電圧(好ましくは二五ボルトと四〇ボルトの間)がプレートと陰極との間に加えられる。この陰極は別のアルミニウムプレートであつてもよい。この処理は、ほぼ最大の砂目立て結果が得られるような時間で行われる。」(第二頁左欄第一三行ないし第三四行)と記載されていること、また、引用例には、電気化学的粗面化工程後に、「プレートは良く知られた陽極処理による厚い酸化皮膜を形成する必要はないが、所望ならばそのように処理してもよい。」(第二頁左欄第五一ないし第五四行)と記載されていること、そして、引用例記載のものにより処理されたプレートからは「明るく精密な印刷物を得ることができ、しかも同等の画像形成物質を用いても従来のものより高耐刷用として使用できる。」(第一頁左欄第五五行ないし右欄第三行)ものであること、以上の事実が認められる。
右認定事実によれば、引用例には、アルミニウム板より成る平版印刷版用支持体の製造法において、アルミニウム板の表面に良好な砂目を形成させるため、アルミニウム板表面を、まず、ワイヤーブラツシング又は研磨剤による機械的粗面化処理を行い、次いで、九五度Cの五%苛性ソーダ溶液に浸漬し、十分に清浄化した後電気化学的な粗面化処理をする技術、そして電気化学的粗面化工程の後に陽極酸化処理を行つてもよいことがそれぞれ開示されているものと認められる。
(三) 右のとおり、アルミニウム板より成る平版印刷版用支持体の製造法において、本願第一発明は、(a)工程(機械的粗面化工程)と(c)工程(電気化学的粗面化工程)との間に、酸又はアルカリの水溶液で、アルミニウムが二ないし八g/m2の範囲でエツチングされるように化学的にエツチングする(b)工程を設けるものであり、本願第二発明は、右(c)工程の後に(d)工程として陽極酸化処理工程を付加するものであるのに対し、引用例記載のものは、本願発明における(a)工程に相当する機械的粗面化工程と、(c)工程に相当する電気化学的粗面化工程との間に、九五度Cの五%苛性ソーダ溶液に浸漬し、十分に清浄化する工程を設けるものであり、右電気化学的粗面化工程の後に陽極酸化処理を行つてもよいものである。
ところで、前掲甲第二号証によれば、本願発明における(b)工程の化学的エツチング処理は、「機械的砂目立ての際に食い込んだ研磨剤、アルミニウム屑等を除き、その後に施される電気化学的粗面化を効果的に行なう為に行なわれるものであり、」(本願公告公報第五欄第一五ないし第一八行)、「工程(b)の化学的なエツチング処理が省略された場合には、工程(c)によつて生成される砂目が不均一となる」(同第四欄第五ないし第八行)ものであると認められる。そして、同号証によれば、本願発明における化学的エツチング処理は、「一般に酸又はアルカリ水溶液にアルミニウム板を浸漬処理することにより行なわれ」(同第五欄第一八ないし第二〇行)、「酸またはアルカリの濃度は〇・〇五~四〇重量%、液温は四〇度Cないし一〇〇度C、処理時間は五ないし三〇〇秒間の範囲から選択することができる」(同第六欄第一四ないし第一七行)ものであつて、本願公告公報には、本願発明の実施例として、一〇%水酸化ナトリウム水に五〇度Cで二〇秒間浸漬してエツチングしたもの(実施例1)、八%の第三りん酸ナトリウム水溶液中に八〇度Cで六〇秒間浸漬してエツチングしたもの(実施例2、3)が示されていることが認められる。
他方、引用例記載のものの前記認定の技術的課題及び引用例の実施例に関する記載によれば、引用例記載のものにおける清浄化処理は、機械的粗面化処理を施したアルミニウム板の表面上に存在する油脂、酸化物皮膜及び異物を取り除くとともに、その後に施される電気化学的粗面化処理とあいまつて良好な砂目を形成させるものであると認められる。
右のとおり引用例記載のものにおける清浄化処理は、本願発明における(b)工程が(a)工程(機械的粗面化工程)と(c)工程(電気化学的粗面化工程)との中間にあつて、(a)工程の機械的砂目立ての際に食い込んだ研磨剤、アルミニウム屑等を取り除くとともに、(c)工程による粗面化を効果的に行わせるものであるのと同様に、機械的粗面化によつて生じたアルミニウム屑、研磨剤残渣等の異物を取り除くとともに、その後に施される電気化学的粗面化を効果的に行うためのものであると認められ、しかも、引用例に記載されている前記九五度Cの五%苛性ソーダ溶液による浸漬処理条件は、本願発明における(b)工程の前記処理条件の範囲に含まれ、引用例記載のものにおける苛性ソーダ溶液による浸漬処理によつてもアルミニウム板がエツチングされることは明らかであるから、引用例記載のものにおける清浄化処理は、本願発明における(b)工程の化学的エツチング処理に相当するものと認めるのが相当である。
(四) 原告らは、引用例に開示されているのは機械的粗面化と電気化学的粗面化(あるいは化学的粗面化)との二種の砂目立ての組合せのみであり、本願発明における(a)、(b)、(c)の三工程を順次経るという技術的思想は全く開示されていない旨主張するが、右主張が理由のないことは叙上説示したところより明らかである。
また、原告らは、引用例記載のものにおける清浄化処理は、苛性ソーダ溶液により「完全に清浄化する」(原告は引用例の前記「thoroughly Cleaned」を「完全に清浄化する」と訳して、立論する。)ためになされているものであつて、これにより、「表面上のあらゆる異物ばかりでなく、すべての油脂と酸化物皮膜が取り除かれる」ものであるところ、本願発明における(b)工程は、機械的粗面化によつて生ずる残留研磨剤を完全に除去する清浄工程とは異なるものであるから、引用例記載のものにおける清浄化処理と本願発明における(b)工程とは、技術内容を全く異にする旨主張する。
しかしながら、前記説示のとおり、本願発明と引用例記載のものとの技術的課題に格別の差異が存するものとは認められず、引用例記載のものにおける清浄化処理の条件は、本願発明における(b)工程の処理条件として開示されているものの範囲内にあること、「thoroughly cleaned」なる用語は「完全に清浄化する」と一義的に解釈すべき必然性はないことからすると、引用例に「表面上のあらゆる異物ばかりでなく、すべての油脂と酸化物皮膜が取り除かれる」という記載があるからといつて、引用例記載のものにおける清浄化処理は、厳格な意味での「完全に清浄化する」、すなわち、プレート表面上のすべての油脂や酸化物皮膜などあらゆる異物を厳格な意味で完全に除去するものと解するのは相当でなく、技術上常識的な意味で、その後の電気化学的粗面化処理に対して悪影響を与えない程度に十分に清浄化することと理解すべきものであつて、その技術内容は本願発明における(b)工程と異ならないものと認めるのが相当である。
なお、前記認定のとおり、引用例には、清浄化処理の手段として、九五度Cの五%苛性ソーダ溶液による浸漬と記載されていて、処理時間については明記されていないが、本願公告公報に開示されている、本願発明における化学的エツチングの処理時間は五ないし三〇〇秒間という広い範囲から選択できるものであること前記認定のとおりであること、他方、成立に争いがない甲第七号証によれば、原告が引用例記載のものにおいて原告のいう「完全に清浄化」のためのエツチング量を求めた実験証明書(右実験の目的については昭和六一年三月一八日付け原告第二準備書面第二二、第二三頁参照)には、その第1表の実験で設定した処理時間は一秒から二〇秒までの間の六段階である旨記載されていることが認められ、引用例記載のものの清浄化処理時間は本願発明における化学的エツチングの処理時間の範囲外のものではないことが窺われることに鑑みても、引用例に清浄化処理の時間が記載されていないことをもつて、引用例記載のものにおける清浄化処理と本願発明における(b)工程が別異の技術内容であるとすることはできない。
本願公告公報第五欄第四四行ないし第六欄第二行の記載及び実験証明書(甲第七号証)の記載を挙示して本願発明における(b)工程と引用例記載のものにおける清浄化処理の技術内容が異なるとする原告の主張は、引用例の「十分に清浄化する」との記載が原告の主張するようにプレート表面上のすべての油脂や酸化物皮膜などあらゆる異物を厳格な意味で完全に除去することを指称するという解釈に立脚したものであり、その解釈を是認することができない以上、原告の右主張は、これに対する被告の反対主張について判断するまでもなく、その前提において失当であるから、採用することができない。
以上のとおりであつて、第二の処理工程が本願発明ではアルミニウムの化学的エツチング量二ないし八g/m2の範囲で行われるのに対し、引用例記載のものではエツチング量につき数値的記載がない点を除けば、両者の間に全く相違がないとした審決の認定に誤りはなく、原告の前記主張は理由がない。
2 次に、原告らは、本願発明の(b)工程における化学的エツチング量についての選定は、参考資料一及び二記載の化学的エツチング量を参考にし、さらに機械的粗面化や電気化学的粗面化の程度を参酌して実験的に適宜決定し得ることであるとした審決の認定、判断は誤りである旨主張するので、この点について検討する。
(一) 成立に争いのない甲第五号証(昭和四八年特許出願公開第四九五〇一号公報)によれば、参考資料一記載の発明の特許請求の範囲は、「砂目立てされたアルミニウムの表面を、塩基性または酸性アルミニウムエツチング液により〇・五グラムから三〇グラム/m2の範囲でエツチングを行い、しかる後に陽極酸化することを特徴とするアルミニウム支持体の製造法」であり、参考資料一の明細書の項の発明の詳細な説明には、「まず第一に、砂目立てをしたアルミニウム板を電解した場合、版面が変色黒化することである。この現象は砂目立ての研磨粉残渣に負うところが多いと考えられているが、前述のいずれの研磨法においても発生し、また研磨後の洗滌の強化を行つてもこの変色は避けられない。更にこの現象は不均一なごく僅かの研磨状態にも鋭敏で、ムラを極めて強化する結果となる。(中略)これらの難点は、印刷業界において極めて大きな問題であり、従つて本発明者らはこれらの問題点を解決するため鋭意研究した結果砂目立ての後、陽極酸化処理前に塩基性あるいは酸性のアルミニウムを溶解しうる処理液(アルミニウムエツチング液)により砂目立て表面を〇・五グラムから三〇グラム/m2の範囲でエツチングすることにより極めて好結果をもたらすことを見出した。」(同公報第二頁左上欄第一五行ないし同頁左下欄第一一行)と記載されていること、すなわち、参考資料一記載のものにおけるエツチングは、機械的粗面化による砂目立てをしたアルミニウム板を直接陽極酸化処理した場合、版面が変色黒化するので、これを防止するために行われるものであることが認められる。また、成立に争いのない甲第六号証(昭和五〇年特許出願公開第一五六〇三号公報)によれば、参考資料二には、同資料記載の「アルミニウム板を(1)酸またはアルカリでエツチングし、(2)陽極酸化して〇・五~一〇g/m2の酸化アルミニウム層を形成し、(3)感光物質を塗布する工程を連続的に行なうことを特徴とする感光性平版印刷版の製造法」を特許請求の範囲とする発明の実施例として、アルミニウム板表面に砂目を形成するため、機械的に粗面化し、次いでエツチング液により約六g/m2(実施例1)、約三g/m2(実施例2)のアルミニウムをエツチングし、しかる後に陽極酸化処理したものが記載されていることが認められる。
右認定事実によれば、参考資料一及び二に記載されているエツチングは電気化学的粗面化を効果的に行うことを目的とするものではなく、その点で本願発明における(b)工程の化学的エツチングとその目的を異にするものと認められるから、参考資料一及び二記載のエツチング量を本願発明における(b)工程の化学的エツチング量の選定に参考になるとした審決の認定、判断は誤つているものというべきである。
(二) ところで、前1項において認定したとおり、引用例には、アルミニウム板より成る平版印刷版用支持体の製造法において、アルミニウム板の表面に良好な砂目を形成させるため、アルミニウム板表面を、まず、機械的に粗面化し、次いで、九五度Cの五%苛性ソーダ溶液に浸漬し、十分に清浄化した後電気化学的な粗面化処理をする技術が開示されており、引用例記載のものにおける右清浄化処理は、機械的粗面化処理を施したアルミニウムの表面上に存在する油脂、酸化物皮膜及びその他の異物を除去するとともに、その後に施される電気化学的粗面化を効果的に行わせるためのものであるから、本願発明におけるアルミニウムの化学的エツチング量である二ないし八g/m2とするようなことは、引用例記載の技術内容に基づき、当業者が清浄化処理の右目的に副う実験を繰り返すことによつて容易に想到し得る程度のことと認めるのが相当である。
そして、引用例には、電気化学的粗面化処理の後に陽極酸化処理を行つてもよい旨記載されているから、本願第二発明における(d)工程(陽極酸化処理工程)を設けることに想到することも、引用例記載の技術内容に基づいて容易になし得るものであることは明らかである。
なお、原告は、化学的エツチングの程度に一定の限界の存在することは、当然のことであり、そのエツチング量が過多になると機械的粗面化で形成されたアルミニウムの表面のヒルを除去することになり、耐刷力の低下することも容易に予測できることである旨の審決の認定、判断の誤りを主張する。しかし、本願発明のような平版印刷版用支持体の製造方法の一工程として支持体素材のアルミニウム板(アルミニウム合金板を含む。)に化学的エツチングを施す場合、当該技術の目的に照らし、また、前工程である機械的粗面化処理や後工程である電気化学的粗面化処理、陽極酸化処理の諸条件あるいは程度などとの関連において化学的エツチング量に一定の限界があることは自明のことであり、当業者が化学的エツチング量を適宜決定するに当たり、該エツチング量が過多になつて、耐刷力の低下をもたらすことがないように考慮することもまた当然のことであるから、審決が化学的エツチング量が過多になると耐刷力の低下することも容易に予測し得ることであるとした認定、判断は、化学的エツチング量が過多になると、アルミニウム表面のヒルを除去するとしたことの当否いかんにかかわらず、結局正当として是認することができ、原告の前記主張は採用できない。
以上のとおりであつて、本願発明は、参考資料一及び二を参考とするまでもなく、引用例記載の技術内容に基づいて容易に発明をすることができたものと認められるから、参考資料一及び二記載のエツチング量を本願発明における(b)工程の化学的エツチング量の選定に参考になるとした審決の認定、判断の誤りは、本願発明は当業者が容易に発明をすることができるものであるとした審決の結論に影響を及ぼすべき違法なものとは認められず、したがつて、右誤りをもつて審決を取り消すことはできない。
以上のとおりであつて、審決はその結論において正当であり、原告ら主張の審決の取消事由は理由がない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告らの本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
1 アルミニウム板の表面を、順に
(a) 機械的に粗面化し、
(b) 酸またはアルカリの水溶液で、アルミニウムが二~八g/m2の範囲でエツチングされるように化学的にエツチング処理し、
(c) 電気化学的に粗面化する
ことを特徴とする平版印刷版用支持体の製造方法。(以下「本願第一発明」という。)
2 アルミニウム板の表面を順に
(a) 機械的に粗面化し、
(b) 酸またはアルカリの水溶液で、アルミニウムが二~八g/m2の範囲でエツチングされるように化学的にエツチング処理し、
(c) 電気化学的に粗面化し、
(d) 陽極酸化する
ことを特徴とする平版印刷版用支持体の製造方法。(以下「本願第二発明」という。)